台湾のインディーデベロッパーである Red Candle Games の手によるホラーアドベンチャー、
「返校(Detention)」をプレイしました。

この「返校」、元々結構評判は良く、
何度か話題に上がっていたので気にはなっていたのですが、
Automaton さんの以下の記事で、サイレントヒルの山岡晃氏と本作製作者達との対談を読んで俄然期待が高まりました。
サイヒルファンとしては必読な内容でしたので、興味あれば是非そちらも読んで頂ければと思います。
http://jp.automaton.am/articles/interviewsjp/20171027-56719/
こちらを読む限り、Red Candle Games の人達も相当にサイレントヒルが好きな様子で、
作品の中で影響された部分は、意識的にも無意識的にも多岐に渡っているようです。
ゲーム的には「クロックタワー」を思い浮かべる様な、横視点固定のポイント&クリック系な作りなのですが、
グラフィック的には随所に不気味且つ独特な、サイヒル的異界感とでも言いましょうか、
雰囲気ある恐ろしさと、情緒を感じるような素晴らしい風景が満載で、とても印象的です。
個人的にこの手のインディーなホラーと言うと、
グラフィックにチープさのあるものが目立つ事が多いと言いますか、
ツクール系で作った様な物だとか、レトログラフィックと言うよりむしろ手抜き感あると言った方が妥当な物だとか、
そういうのって割と映像的に拙いせいで怖さが無いという場合があると思うんですが、
本作は背景などに所々で写真を取り込んだような実写調グラフィックを使ってたり、
レトロ感でごまかさずに、リアルなおどろおどろしさを出すべき所はきちんとリアルなグラフィックを作り込んであったりして、
大作並とは行かなくてもチープさは皆無で、実際恐怖はかなり感じられるだけの映像になっていると思います。
ホラーに大事な演出などに関しても、
サイヒル好きも納得の異界感であったり、じわじわと迫って来る不気味さであったりは無論のこと良く出来てますし、
独自のアジアなモチーフは他に無い(同じアジア人としてどこかアンテナに引っ掛かる様な)怖さを上手く生み出しています。
グラフィック面はこの規模の作品の中ではずば抜けて良く出来てるんじゃないでしょうか。
同じく音楽に関してもサイレントヒルへのリスペクトは強く、
山岡氏による物悲しさや切なさを含んだ楽曲を思わせるようなものがあったり、
ノイジーな怖いBGMもあったりで、味わい深い雰囲気は十分でしたし、
一部では中国の土着な音楽を使った感じの物なんかもあって、かなり満足の行く出来だと言えます。
ストーリーに関しては、敢えて多くは語りませんが、
学校を舞台にしたホラーという事で、
最初こそいかにもな雰囲気で始まるのですが、
次第に思春期の女学生の不安定な感情と、かつての台湾での抑圧的だった情勢とが絡み合い、
その当時の状況をプレイヤーに想像させ、考えさせるような、
奥深い情緒を持った物になっています。
台湾の近代の政情や歴史などについて、あまり詳しい訳ではないので、
断片的なドキュメントや演出などから窺い知る事しかできないですが、
中国古来からの土着的な心霊要素と、台湾の近代の政情とが混ざり合うというのは、かなり他には無い、
と言うか製作者にとって自分の国だからこそ語れた話とでも言うんでしょうかね。
インタビューでも語っていましたが、注目されてこなかったテーマを取り上げ、
それをホラーとしてこういった雰囲気にまでアレンジしたというのは、純粋に興味深く、その手法は素晴らしいと言えます。
サイレントヒル好きとして、ストーリーはかなり手放しに良かったと思います。
ここまで良い意味でのリスペクトという言葉(皮肉的な使い方は普段から山ほどする機会がありますが。)
を響かせる様な作品は稀と言うか、これまでもサイヒルっぽいホラーゲーは多くありましたが、
純粋にサイヒルの精神と言うか、らしさみたいなものをここまで忠実にトレース出来ていた作品は無かったと思います。
それだけ製作者のサイヒルへの傾倒や影響というのが本物だったという事でしょうし、
凡百のフォロワーに無い、真摯なリスペクトと言う意味で、本家のファンとしては心から嬉しく思えましたし、
それでなくても、純粋にホラーとしての出来に感嘆する他無いです。
周囲の不幸な状況と少女の内面とのリンク、恐怖が次第に愛や哀しみといった要素に取って代わり、
最終的に怖さでなく切なさが残る、というのは正にサイレントヒルシリーズのこれまでの多くに共通するテーマの様な物だと思いますが、
本作にもその魂が忠実に受け継がれており、繊細に再現されています。
それだけに留まらず、
アジアンな雰囲気による独自性、
台湾という国の歴史を描く独特で他では出来ない題材、
それらを溶け合わせ、主人公の内面の闇(サイヒルの異世界かの様な)を浮かび上がらせるストーリーテリングなど、
多くの面で、ただ単にリスペクトだけの無個性な作品に終わらず評価させるに至っています。
それが無ければいつもの様に他で見た感じを非難してるとこと思いますけど、本作はそうではない。
サイヒル好きじゃなければどうかってのはあるとは思いますが、
恐らくは単純にサイレントヒルやそれに類するゲームを知らなかったとしても、
慎重に調整された良作であるという事実は変わらないでしょう。
意外と謎解きはきちんと作られており、
シンプルで導線も明確ながら、今時のゆるいパズルとかに慣れ切っていると、
「アレッ・・・?」と悩むことになってしまうかも知れません。
自分も最初はもっとゆるい謎解き程度だろうと(無意識に)思ってしまってて、
想像してたよりもちゃんとに謎を解いて行かないといけない場面が多く、
割とポイント&クリック系としてしっかりとしていたのが新鮮に思えました。
ヒントから適切に推理しながら、面倒にならない位に謎を解き、丁度良い程度で済ましているんじゃないでしょうか。
人にもよるでしょうが、バランスとしてはとても好ましいんじゃないかなと思います。
中国古来の神話、道教なんかの要素が絡む辺りも好みです。
息をしないで霊をやり過ごすとか(霊幻道士にもありましたね。)、
一膳飯や紙銭といったアイテムとか、言い伝えとか、
アジアな怖さと言ったものが、日本製ホラー的なじんわりとした雰囲気作りにも一役買っています。
ビックリ系もちょっとはあるとは言え、大部分はじわじわ怖い系なので、
ホラーが苦手な人にも割と勧めやすいのではないでしょうか。(個人差あると思いますので責任は負えませんがw)
ビジュアル、音楽、ストーリー、
多くの面でサイレントヒルの遺伝子直系と言う意味でも、独自の世界観と言う意味でも成功しており、
プレイもシンプル且つ洗練されており、満足感が高い作品だろうと思います。
サイレントヒルファン、ホラーファンだけでなく、
是非、多くの人にプレイしてみて頂きたい。
粛々と、深々と。
恐怖と言うのは浮ついた驚かせなどではなく、
人の心の痛みや強い思いから噛み締めるかの如く生まれるものと感じられれば。
それこそが私がホラーゲーに求めてやまないものです。
公式
http://redcandlegames.com/detention/?lang=jp